「現状維持バイアスを超えていただくには、どうしたらいいと思う?」
今回の接客の授業で、学生たちに投げかけた質問です。
すると一人の学生が、少し照れながら答えました。
「『こちら最後の一点になります。』と言えばいいと思います。」
なるほど。
確かに、今買う理由として、お客様の背中を押す一言としてよく現場でも、耳にする言葉ではあります。
でも私は、その答えをきっかけに学生たちへ問い返しました。
「それは、本当にプロのクロージングなのだろうか。」
クロージングとは「売り切る技術」ではない
接客の授業も、いよいよ最終フェーズを迎えました。
これまで学生たちとは、接客を一つの流れとして学んできました。
まずは、
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お客様が「この人に相談したい」と思える第一印象
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自然なファーストアプローチ。
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お客様の本音を引き出すヒアリング。
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商品の特徴ではなく、お客様にとってのメリットを伝える提案。
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そして今回学んだのが、その集大成となるクロージングです。
クロージングとは、「買いますか?」と迫ることではありません。
お客様が安心して決断できるよう、最後の一歩を支えること。
私は学生たちに、その本質を伝えたいと思っています。
お客様が迷う理由は、商品ではなく心理にある
人は買い物をするとき、必ず迷います。
その背景には、いくつかの心理が働いています。
一つ目は損失回避バイアス。
「買って失敗したくない。」
人は「得をする喜び」よりも、「損をしたくない」という気持ちを2倍強く感じます。
二つ目は現状維持バイアスです。
「今の服でも困っていない。」
「また今度でいいかな。」
変化することそのものに、不安を感じる心理です。
そして三つ目が自己効力感の低下。
「私には似合わない。」
「この年齢で着てもいいのかな。」
本当は着てみたい気持ちがあっても、自分に自信が持てず、一歩を踏み出せなくなることがあります。
販売員が向き合うべきなのは、洋服ではありません。
その奥にある、お客様の心理なのです。
「最後の一点です」で乗り越えさせるのか。
学生の答えは、ある意味では正解でした。
現状維持バイアスを超えてもらう方法として、「今しかない」という状況をつくることは、心理学的には効果があります。
だからこそ、実際の販売現場でも、そのようなトークが使われる場面はあります。
もちろん、本当に最後の一点なら、それは事実を伝えているだけです。
しかし、そうではないにもかかわらず、お客様を焦らせるためだけに使うのであれば、私は違和感を覚えます。
一時的には売上につながるかもしれません。
でも、その嘘がお客様に伝わった瞬間、失うのは一着の洋服ではありません。
販売員への信頼であり、お店への信頼です。
もしかすると、そのような接客を教える現場もあるのかもしれません。
しかし、もしそうだとしたら、それはプロとして本当に目指すべき姿なのでしょうか。
私は、心理学はお客様を操作するために学ぶものではないと考えています。
心理を理解し、不安を安心へ変えるために学ぶものです。
「そんなの関係ない!」その一言に販売の本質を感じた
もう一つ、印象に残った場面がありました。
「『若作りに見られそうだから…。』と迷われたお客様には、どう声を掛けますか?」
そう問いかけると、一人の学生が即答しました。
「そんなの関係ない!」
教室は笑いに包まれました。
でも私は、その答えを聞いて、「ある意味、本質を突いている」と感じました。
お客様が迷っているのは、服ではありません。
「自分には似合わないかもしれない。」
「この年齢で着てもいいのだろうか。」
そんな自己効力感の低下こそが、迷いの正体です。
もし、本当にその服がお客様によく似合っているのであれば。
販売員の仕事は、その事実を自信を持って伝えることです。
もちろん、「そんなの関係ないですよ!」では終われません。
でも、
「ファッションに年齢は関係ありません。」
「今、お客様が素敵に見えているという事実は変わりません。」
「ぜひ、自信を持ってお召しになってください。」
そう言葉を変えるだけで、お客様は安心して前へ進めるかもしれません。
学生の答えは、切り口として間違っていませんでした。
足りなかったのは、お客様の心に届くプロとしての言葉だったのです。
クロージングとは、信頼の答え合わせである
今回の授業を通して、改めて感じたことがあります。
クロージングは、最後だけのテクニックではありません。
第一印象から始まり、ヒアリングを行い、商品の価値を伝え、お客様の不安に寄り添ってきた時間。
その積み重ねがあって初めて、「では、これにします。」という言葉につながります。
だから必要なのは、小手先の話術ではありません。
「似合います。」
ではなく、
「なぜ似合うのか。」
「なぜおすすめできるのか。」
その根拠を、自信を持って伝えられること。
つまり、プロとしてのエビデンスです。
来週はいよいよ総集編。
第一印象からクロージングまで、一連のロールプレイングを行います。
学生たちには、売ることだけを目的にする販売員ではなく、お客様の不安を理解し、安心へ変えられる販売員になってほしい。
クロージングとは、お客様を説得する技術ではありません。
「この人が言うなら大丈夫。」
そう思っていただける信頼関係の先に生まれる、一番自然なコミュニケーションなのだと思います。
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など、「現場で使える知識」をできるだけ専門用語を使わず解説しています。
EC担当者、店長、アパレル販売員、これから業界を目指す学生の方まで、実務に役立つ内容をお届けしています。
筆者プロフィール
高渕 修|株式会社SUNNYDAYWORK 代表
WEBマーケター・服飾専門学校講師。
アパレル販売歴25年、店舗運営20年、EC運営10年。
ショップスタッフから店長、店舗運営、オンライン事業部長を経て独立。現在はEC事業者の運営支援・WEBマーケティング・ECコンサルティングを行うほか、服飾専門学校で店舗運営やEC、マーケティングを指導し、現場で活躍できる人材育成に取り組んでいます。
「現場で本当に役立つ知識を、わかりやすく伝える」をテーマに、店舗・EC・人材育成について発信しています。
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私は服飾専門学校で、店舗運営・EC・Webマーケティングを中心に授業を担当しています。
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