正直に言うと、私は販売員時代、ロールプレイングがとても嫌いでした。
「寸劇じゃん」
そんなふうに思っていました。
実際の接客は、そんなに予定調和ではありません。
お客様が何を言うかなんて、その場になってみないとわからない。
こちらが用意したシナリオ通りに進むことなんて、ほとんどない。
接客はもっとLIVEに近いものだと思っていました。
だから、設定されたシチュエーションの中で、販売員役とお客様役に分かれて接客をするロールプレイングに、どうしても違和感があった。
それに、当時の私には、ロールプレイングが「接客技術を上手く見せるためのもの」にも見えていました。
流暢に話す。
きれいな言葉を使う。
商品説明をスムーズにする。
決められた時間の中で、きちんとクロージングまで持っていく。
なんとなく、「私はこんな接客ができます」というアピール合戦のように感じていたんです。
だから、あまり好きではありませんでした。
ところが、教える側になって少し見方が変わった
今、私は服飾専門学校で学生たちに接客を教えています。
今回、学生のロールプレイング大会に向けた指導をすることになり、2人の学生と一緒に練習をしています。
今日一日、強化練習をしてみて、少し考えが変わりました。
「あれ、ロールプレイングって、これはこれで面白いかもしれない」
そう思ったんです。
もちろん、今回参加している学生たちに恵まれているということもあると思います。
でも、それだけではない。
2人の接客を見ながら、それぞれの長所や短所を指摘する。
「今のタイミングは良かった」
「ここはもう少し待ったほうがいい」
「その言葉より、こっちのほうが自然かもしれない」
「今の質問なら、もう少しお客様の話を引き出せそう」
そんなことを一つひとつ考えながら、接客を少しずつ高めていく。
この過程が、思っていた以上に面白い。
人の接客を、こんなにまじまじと見ることはない
考えてみれば、普段、人の接客をここまで細かく観察することって、あまりありません。
自分がお客様として店に入っても、
「今、何秒待ったかな」
「このタイミングで声をかけたな」
「今の相槌はよかったな」
なんて、いちいち分析しません。
でも、ロールプレイングでは、それができる。
話すタイミング。
間の取り方。
声のトーン。
ボキャブラリー。
質問の仕方。
商品の見せ方。
お客様との距離感。
そして、その人自身の性格。
これまで経験してきたこと。
そういうものが全部、接客に出てくる。
だから、同じ接客をしようとしても、誰ひとりとして同じ接客にはならない。
当たり前のことなのですが、今回それを改めて感じました。
接客は「話す技術」だけではない
そして、今回もうひとつ強く感じたことがあります。
それは、お客様との「呼吸」が合わないと、いい接客にはならないということです。
販売員がどれだけ流暢に話せても、お客様とのテンポが合っていなければ、どこか一方的な接客になってしまう。
逆に、ものすごく話が上手というわけではなくても、お客様との呼吸が合っている人の接客は、とても自然に見えます。
たとえば「ペーシング」。
お客様がゆっくり話しているのに、販売員だけが早口でどんどん話してしまえば、当然テンポが合わない。
反対に、お客様がテンポよく話しているのに、こちらが必要以上にゆっくりしていても違和感が出る。
相槌もそうです。
「はい」
「そうですよね」
「なるほど」
と言えばいいわけではない。
いつ相槌を入れるのか。
これが意外と重要だったりする。
早すぎれば、お客様の話を遮ってしまう。
遅すぎれば、「ちゃんと聞いてくれているのかな」と感じさせてしまう。
つまり、接客は「何を話すか」だけではない。
むしろ、お客様をどれだけ観察できているかということが、かなり大きいのだと思います。
表情を見る。
視線を見る。
話すスピードを見る。
商品のどこを見ているのかを見る。
商品を手に取るタイミングを見る。
手が止まった瞬間を見る。
逆に、少し距離を取ったほうがよさそうな瞬間も見る。
そうやってお客様を観察しているから、
「今は話しかけたほうがいい」
「ここは少し待ったほうがいい」
「もう一歩質問しても大丈夫そう」
という判断ができる。
結局、接客の技術って、商品知識やボキャブラリーだけではない。
目の前のお客様を見て、感じて、合わせていく力。
それも、かなり重要な接客技術なんだと思います。
「正解の接客」を覚えることではない
以前の私は、ロールプレイングを「正解の接客を覚えるためのもの」だと思っていたのかもしれません。
でも、今回学生たちを見ていて、少し違うのではないかと思うようになりました。
ロールプレイングの面白さは、むしろ、
自分の接客を客観的に見ること。
そして、
他人の接客を見ることで、自分では気づかなかったことに気づくこと。
なのかもしれません。
「あの人のあの聞き方、いいな」
「あそこは自分にはないな」
「自分だったら、あそこで商品説明に入ってしまうけど、あの人は一度お客様に返している」
そんな発見がある。
他人の接客を見ることで、結果的に自分の接客も見えてくる。
今日も2人の接客を見ながら、
「今の相槌、ちょっと早かったな」
「今はお客様の話をもう少し待ったほうがよかったな」
「今の表情を見て、もう一歩踏み込めたかもしれない」
そんなことを考えていました。
これって、実際の店舗では、なかなかできないことなんですよね。
店のスタッフ同士では、なかなかできない
そして、もうひとつ。
これは学生だからこそできることなのかもしれない、とも思いました。
これがお店のスタッフ同士だったら、少し事情が違います。
どうしても「売上」がちらつく。
「あの人の接客で売れた」
「自分より数字がいい」
そんなものが入ってくると、なかなか率直な意見をぶつけにくくなる。
もちろん、チームとして接客を共有することは大切です。
でも、自分が時間をかけて身につけてきた接客の「手の内」を、どこまで人に見せるのか。
そんな気持ちも、販売員として働いていれば、少なからず出てくるのではないでしょうか。
自分の強みは、できるだけ自分のものにしておきたい。
そんな衝動です。
でも、学生にはそれがない。
少なくとも今回の2人には、今のところ「売上」というものがない。
だから、
「そこ、もっとこうしたら?」
「今の良かったよ」
「それはあなたの強みだと思う」
と、かなり率直に言える。
お互いの接客を見ながら、いいところも課題も出し合って、前に進める。
これは、すごくいい時間だなと思いました。
もしかしたら、ロールプレイングが悪かったのではなく……
もちろん、2人ともまだまだこれからです。
今日一日練習したからといって、急に完璧な接客になるわけではありません。
むしろ、課題はたくさんあります。
でも、今日の強化練習を終えて、
「これはこれで、有意義だな」
と素直に感じました。
そして、もしかしたら私は今まで、ロールプレイングそのものが悪いと思っていたのではなく、
ロールプレイングのやり方が、うまくいっていなかっただけなのかもしれない。
そんなことも思いました。
ロールプレイングは、接客を「上手く見せる」ためのものではない。
自分の接客を見つめ直す。
他人の接客から学ぶ。
自分では気づかなかった強みや弱みに気づく。
そして、お客様を見る目を養う。
そう考えると、意外と奥が深い。
何より、接客というものを改めて細かく考えるきっかけになる。
販売員時代には「寸劇じゃん」と思っていたロールプレイング。
今は、その寸劇を横から見ながら、
「人の接客って、面白いな」
と思っています。
そして、接客を見れば見るほど思う。
結局、いい接客って、販売員が何をするかだけでは決まらない。
目の前のお客様をどれだけ見て、どれだけ感じて、その人に合わせられるか。
そこに、接客の面白さがあるのかもしれません。
まだ大会までは時間があります。
この2人がここからどんな接客に変わっていくのか。
そして、自分自身がそこから何を学ぶのか。
それも含めて、もう少しこの「ロールプレイング」を楽しんでみようと思います。

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