「アパレル店員は、年を取ったらどうなるんだろう?」
アパレル業界を目指している学生や、販売員として働き始めたばかりの人からすると、一度は考えることかもしれません。
20代の販売員はたくさんいるけれど、30代、40代、50代になったときも販売の仕事を続けられるのか。
もし販売職を離れることになったら、どんな仕事ができるのか。
私はアパレル業界で25年間働き、そのうち20年ほどを店頭で過ごしてきました。店長として店舗運営にも携わり、これまでたくさんの販売員と一緒に仕事をし、そして多くの人が会社を去っていく姿も見てきました。
その経験から感じるのは、
「年を取ったら販売員として働けなくなる」ということではありません。
むしろ、販売の現場で積み重ねた経験は、年齢とともに価値を持つものだと思っています。
ただし、ひとつ大切なことがあります。
それは、「販売員を続けること」と「キャリアを積むこと」は、必ずしも同じではないということです。
アパレル店員は年を取ったら販売を続けられないのか?
結論から言えば、年齢だけを理由に販売職を続けられなくなるわけではありません。
むしろ販売経験が長くなるほど、
- お客様が何に悩んでいるのか
- なぜ購入を迷っているのか
- どのタイミングで声をかけるのか
- 商品のどこを伝えればよいのか
- お客様によって接客をどう変えるのか
といったことが分かるようになります。
これは、教科書を読んだだけでは身につきません。
実際にお客様と向き合い、失敗し、考え、また接客する。
その繰り返しによって身につくものです。
だから私は、販売員として現場に立った時間そのものが、大きなキャリア資産になると考えています。
ただ、「販売を続ければいい」とも思っていません
一方で、25年間アパレル業界にいて、たくさんの販売員を見てきたからこそ感じることがあります。
それは、
「今の会社で販売員を続けること」だけをキャリアにしてしまうのは、少し危険ではないか
ということです。
実際に、長く販売を続けている人の中には、
「販売が好きだから続けている」
という人もいれば、
「ほかに何ができるのか分からないから続けている」
という人もいました。
もちろん、それが悪いわけではありません。
ただ、自分自身が何を身につけているのかを考えないまま時間だけが過ぎてしまうと、いざ環境を変えようとしたときに、
「自分には何ができるんだろう?」
となってしまいます。
アパレルは「店舗ビジネス」。本部職が無限にあるわけではない
アパレル業界で働く人の中には、
「販売員として経験を積んだら、将来は本部に行く」
というキャリアをイメージしている人もいるかもしれません。
たしかにアパレル企業には、
- MD
- バイヤー
- VMD
- EC
- Webマーケティング
- 人事
- 教育
- 商品企画
- 販促
など、さまざまな仕事があります。
しかし、忘れてはいけないのが、アパレルは店舗ビジネスでもあるということです。
複数の店舗を展開している会社なら、本部の仕事よりも店舗で働く人のほうが当然多くなります。
つまり、
「販売員として経験を積めば、いつか全員が本部職に行ける」わけではありません。
本部のポジションには限りがあります。
だから、「本部に行けなかった=キャリアに失敗した」と考える必要はないと思っています。
問題は「本部に行けないこと」ではない
私が25年間の経験で感じてきたのは、問題は本部に行けるかどうかではない、ということです。
大切なのは、
「今、自分は何を積み上げているのか?」
が見えているかどうかです。
組織の中では、上のポジションに行くほど席は少なくなります。
そして、苦労してそのポジションにたどり着いた人ほど、自分が担当している仕事を手放しにくくなることもあります。
「この仕事は自分にしかできない」
という状態です。
これは必ずしも悪意があるわけではありません。
長年責任を持って仕事をしてきた結果、自然と仕事が属人化してしまうこともあります。
しかし、その結果として、その下にいる人からすると、
「この先に自分が成長する場所がない」
と感じることがあります。
そして、中間層の人が会社を離れていく。
私は、こうした人の流れも組織には必要だと思っています。
新しい人が入ってくることで、会社に新しい考え方や価値観が生まれるからです。
だから、会社を辞めること=キャリアの失敗でもありません。
販売員として身につけた経験は、他の仕事にも使える
では、販売員として働いた経験は、販売を辞めたら意味がなくなるのでしょうか。
私はそうは思いません。
販売の仕事では、実は非常に多くの能力を使っています。
例えば、
- お客様のニーズを把握する
- 相手に合わせてコミュニケーションする
- 商品の特徴を分かりやすく伝える
- 購入を迷っている理由を考える
- 売上や客数などの数字を見る
- 商品の動きを分析する
- スタッフを育成する
- 店舗を運営する
- 売場を改善する
- 販売計画を立てる
こうした経験は、販売職だけに必要なものではありません。
EC、マーケティング、店舗運営、人材育成、営業、教育など、さまざまな仕事につながっていきます。
ただし、ここで重要になるのが、
「経験を言葉にする力」です
私は、これが販売員のキャリアを考えるうえで非常に重要だと思っています。
例えば、
「接客が得意です」
だけでは、転職先の会社には、その人の能力がなかなか伝わりません。
それよりも、
「お客様が購入を迷っているときに、商品のメリットを一方的に伝えるのではなく、何に迷っているのかを確認するようにしていました。その結果、購入後の着用イメージまで伝えられるようになりました」
と説明できたほうが、自分の経験が伝わります。
さらに、
「なぜそうしたのか」
「何を考えたのか」
「結果として何が変わったのか」
まで言葉にできれば、それは単なる「販売経験」ではなくなります。
自分だけの経験知になります。
「経験する」だけではなく「言語化する」
私は、販売員のキャリアを考えるとき、
経験する
↓
考える
↓
言葉にする
↓
再現できる形にする
という流れが大切だと思っています。
例えば、
「この商品はよく売れた」
で終わらせるのではなく、
「なぜ売れたのか?」
を考えてみる。
価格なのか。
デザインなのか。
接客なのか。
売場の見せ方なのか。
お客様のニーズと商品が合っていたのか。
あるいは、複数の要素が重なったのか。
そこまで考えることで、経験が知識に変わります。
これは店長になったときにも、ECに関わるときにも、後輩を育成するときにも役立ちます。
私自身も、販売経験から仕事が広がっていった
私自身、最初から「将来はECの仕事をしよう」「学校で販売を教えよう」と考えていたわけではありません。
店頭で販売を経験し、店長として店舗運営を経験しました。
そこで、
- お客様
- 商品
- 売場
- スタッフ
- 売上
- 数字
について考えるようになりました。
その後、ECに関わるようになり、現在は企業のECサイトの構築・運用支援や、ファッション系の専門学校で販売について教える仕事もしています。
振り返ってみると、現在の仕事の土台になっているのは、やはり店頭で積み重ねた経験です。
ただ、経験しただけでは、ここまで仕事が広がらなかったと思います。
「なぜ売れたのか」
「なぜ売れなかったのか」
「なぜこの接客がうまくいったのか」
「どうすれば人に伝えられるのか」
そうやって考えてきたことが、今の仕事につながっています。
「会社に残ること」だけをキャリアにしなくていい
アパレル業界で長く働くことには、もちろん価値があります。
ひとつの会社で経験を積み、店長になり、その後本部へ行く。
そういうキャリアもあります。
一方で、
別の会社へ転職する。
販売の経験を活かしてECに進む。
店舗運営の経験を活かして人材育成をする。
独立する。
教育に携わる。
という道もあります。
大切なのは、
「今の会社に残れるか」だけではなく、「ここで何を身につけているのか」
を考えることではないでしょうか。
アパレル店員は、年を取ったらどうなるのか
25年間、販売現場を見てきた私が伝えたいのは、
年齢を重ねることを、それほど怖がらなくてもいい
ということです。
販売員として働いた経験は、年齢とともに積み上がります。
ただし、
「とにかく販売を続ければいい」
ということでもありません。
お客様から何を学んだのか。
商品について何を理解したのか。
売場について何を考えたのか。
数字から何を読み取ったのか。
後輩に何を伝えたのか。
そして、それらを自分の言葉で説明できるか。
ここが、これからのキャリアを考えるうえで大切だと思っています。
アパレル販売は、単に服を売る仕事ではありません。
人を見る。
商品を見る。
売場を見る。
数字を見る。
そして、考える。
その経験を自分の中に蓄積して、言葉にしていく。
そうすれば、販売員として積み上げた経験は、販売職を離れたあとも決して無駄にはなりません。
「年を取ったらどうなる?」と考える前に、
「今の自分は、何を身につけているだろう?」
まずは、そこから考えてみてほしいと思います。

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